原子力発電と放射線 二つの安全
8/1付の読売新聞の朝刊に、東洋英和女学院大学の学長であり、科学史家の村上陽一郎さんが「原発と放射線 二つの安全」というタイトルで興味深いご意見を寄せられていました。参考までに要約して紹介します。
・今回の原子力災害に関して、安全面から少なくても二つの異なった論点がある。
一つは、現在停止中の原子炉の「運転再開を巡る安全」。もう一つは、「放射線の被曝量を巡る安全
基準」。
・ 「運転再開を巡る安全」について指摘しておきたいのは、福島第一原子力発電所の事故で、他の原子
力発電所の安全状況が変化したわけではないという点。言い換えると、これまですべての原子炉で小
さなトラブルは多々あったとしても、致命的な問題を起こさずに安全に運転されてきた実績が、今回の
事故で全てゼロになったわけではない、ということ。今回の事故が、津波によって冷却システムが駄目
になったのが原因であれば、そうならないだけの処置が施されれば、これまで通り運転を続けることを
合理的に否定できる要素はないはず。もちろん、この機会に、老朽化しつつある原子炉の安全性チェ
ックをより厳密に行うなど、「これまで以上に、より安全な」状態を目指すことは、極めて合理的な対応。
・ 「放射線の被曝を巡る安全」については、本当にやっかいな問題。もちろん、一回に浴びる放射線が、
直ちに死を招くような結果をもたらすのはどの程度の量か、という問いには、今の科学でも、ある程度
正確に答えることができる。また、チェルノブイリ後のような、かなり長い年月をかけて、疫学的な調査
データが積み重ねられれば、浴びた量などによりどのような形で健康が脅かされるかを、確率的に推
定することもできる。ただ、それは統計の世界であって、一人の人間が、どうなるかという因果的な話
にはつながらない。科学が確実な因果関係を設定できない領域では、科学的合理性を超えた配慮が
必要になる。たとえば「事前警戒原則」と呼ばれる、確率的には低いことが判っていても、安心のため
に、しかるべき手を打っておく、という原則も動員せざるを得ないかもしれない。
会報「上関未来通信(特集号)」を見てもらうと分かりますが、放射線医療の専門家である広島大学の細井教授に今回の事故で地元の方の健康にどんな影響が出るかを聞いたところ、「放射線による被害は出ていないし、これからも出ないでしょう」とのことでした。安易に「問題なし」と結論付けるわけではありませんが、放射線について正しく理解したうえで、正しく怖がる必要があると思います。
また、リスクがあるからと全てを拒絶するのではなく、資源の少ない日本でのエネルギーのあり方をしっかり議論し、今回の事故を踏まえた安全な原子力発電所の建設・運転に最善を尽くしていただきたい!もちろん、再生可能エネルギーの開発も当然必要ですが、見通しが甘く根拠の乏しい主張だけに心を奪われることなく、現実をしっかりと見つめ日本全体を考えたエネルギーのあり方を一緒に考えていきましょう!